「皇国の守護者」伊藤悠

このマンガの評判を今まで耳にしなかったのは意外だ。日露戦争とかその辺りをモチーフにしているような時代設定だけれど、そこに飼いならされた虎を組織した部隊が登場し、龍が飛び交い、テレパシーを専門にする兵士がおり、そういう不思議がポンと置かれている様子がなんとなく説得力を持っていて、それが心地よい。作者がひとたびルールを設定してしまえば、作品の中ではごく自然なものとして受け入れられるものなのかな。それが突飛なものであっても。いや、でもな。そんな簡単なことでもあるまいしな。リアルさとファンタジーの要素が同居していることっていうのはよくあることだけれど、普通はファンタジーの部分を嘘だと了解して読むのに対して、このマンガでは、ファンタジーがさも動かしようのない歴史的事実であるかのように感じるので、なんとなく普通とは違ってくすぐったいような気持ちになる。


主にこのマンガを進めていくのは、一人の才能ある若い兵士だ。そういう天才的な指揮能力を持つ若き英雄が兵隊を指揮して窮地を脱したり、敵をやっつけたりすると、やっぱり読んでいる方としてはすごくカタルシスがあるというか、さらにはそういう人間が苦悩を抱えながらも責任を全うしている姿を見ると、美しいなあとすら思って震えてしまう。けれど、思ってしまうのだけれどそこに一片の留保が付いてしまうのはなんでなのかなあ。なんかこう、このマンガに限らず、かっこよさに対して尻込みしてしまう時がある。


話をまとめると(別にまとめる必要もないのだけど)、この漫画のいい点は、主人公のヒーローぶり、ファンタジーが自然にリアルさに溶け込んでいること、それと戦争がわかりやすいことだ。わかりやすいというのは、戦争の話なので、当然、今どういう風に戦っているかというのが展開のキモになってくるわけだけど、そこが複雑でないので変なところでページをめくり返したりしなくて済み、細かいことが覚えられない俺のような人でも面白く読めた。